Mayumi Terada
寺田 マユミ
寺田マユミ(Mayumi Terada)。兵庫県川西市出身、大阪在住。甲南大学文学部英文学科卒業。CDジャケットアートワーク、挿画、広告等で活動中。ものがたりを思い描きながら制作をする。
- 2017年個展「FRAGMENT AS A THOUSAND WORS」 / ondo gallery kagurazaka
- 2018年個展「恋だからしかたがない」/ DMO ARTS
Artist Interview
SHOWER:THE SHOWER GALLERY9回目となる展示アーティストは、関西で活躍されているイラストレーターの寺田マユミさんです。どうぞよろしくお願いします。
Terada:よろしくお願いします。
SHOWER:早速ですが、イラストレーターになられるきっかけは何だったんでしょうか?
Terada:
普通の4年制大学に通ったんですけど、芸大とかに行かない時点で絵の道はないと思っていて。絵を描くのは好きだったんですけど、趣味程度でしか描けないと思っていたんです。結婚してから久しぶりに会った友達が外語大学に行っていたのに絵のグループ展をすると聞いて。普通の学校を卒業しても絵の道ってあるんだと思って、すごく衝撃を受けて。グループ展に私も参加させてもらってから、何回か展示を重ねるうちに少しずつお仕事のお声がかかってきました。
それからFM802という大阪のラジオ局が主催している「digmeout」というアーティスト発掘の企画に応募してみたんです。それが運良く受かって、それまで自称イラストレーターとして細々とやっていましたが、大きな企業さんのお仕事とかももらえたり。ご縁がご縁を生んでくれて、ようやくお仕事を貰えるようになってきたかな〜というところです。
SHOWER:一般的には芸術系の学校に通ってイラストレーターになる人が多いかと思いますが、そういう道ではないところからイラストレーターになっての苦労はありましたか?
Terada:
作家仲間と呼べる人が「digmeout」に入るまであんまりいなくって。芸大とかに行ったらいろんな繋がりが出来ると思うんですけど。
それと実績がないと、ちゃんとしたものが出来るのだろうかというところがお客さん的に不安になるんだろうなと思いながらやったりしてます。何年か前までパソコンでの作業が全然できなくて。それって今だと致命的じゃないですか。納品する時に手描きでもスキャンしてデータで下さいみたいな事があると、ちんぷんかんぷんではダメですよね(笑)。
SHOWER:アナログとデジタルという話ができましたけど、それぞれで描き方を変えたりしてますか?
Terada:展示作品の場合はアナログと思っていて。グッズ的なものやキャラクターものとかはデジタルの方が向いてるなと考えてます。すごく修正がいっぱいきそうな場合はデジタルにしてますけど、お仕事の内容を確認してから、なるべく手描きで描くようにしてます。
SHOWER:線ひとつとってもデジタルはパキッとしてるけど、アナログはボヤけてる部分が味になってる時もありますもんね。
Terada:そうですね。全然違うので自分の作品をみてもらう時は、納得がいくほうを出してます。デジタルでも上達すればそういうことも出来るんでしょうね(笑)。
知り合いのイラストレーターは、基本デジタルで作品をつくる人なんですけど。デジタル作品を展示する場合にペタンとしてしまうから、わざとキャンパスに印刷してもらって質感を出すらしく。手描きで出来るなら手描きでいいやんって言ってくれはるんですけどね。私は逆でデジタルが出来るって素晴らしいって思うんですけど。
SHOWER:どちらも長所短所があって、できないものを求めてる部分もあるでしょうね。
Terada:両方できたらいいと思うんですけどね。デジタルで展示に耐えうるような作品をつくるのは色んな技があってやっと作品になるんだと言われて、それなら手描きでいいかと思いました(笑)。
SHOWER:今回の個展に「Life in Wonderland」というタイトルをつけてもらいましたが、このタイトルに込めた意味は何でしょうか?
Terada:昔の人は不思議な事があったら、妖怪とか狸が化けたとか、そういう想像で自分を納得させてたところもあると思うんです。今はもう科学が発達して、「狸が化けるなんてありえへん!」みたいな事で、想像が膨らまなくなっているようなところが多くて。そうじゃなくて、あれは妖怪が走ったんだろう、みたいな考え方の方が楽しいじゃないですか。
そういう想像は昔の人だけでなく今の私たちにも出来る事なので、現代もちょっとワンダーランドに見えてくる。そこに住んでるって思ったら、色々乗り越えられることもあるんじゃないかなと思いますね。
私の絵は余白が多いと言われるんですけど、その余白は想像力で見てもらうことを考えています。昔話の不思議な想像力と同じような感じで、余白によって風景を感じてもらえたり。落語とか能とかって、白バックで小道具とかもほとんどないのに、その人の芸や間の取り方で場面とか風景がみえるのがすごいと思って。そういうのができたらいいなと思って描いてますね。
SHOWER:東京で展示された作品は一般的に有名なお話ですけど、変わった構図で描かれてるものが多いと感じました。
Terada:昔話を読み返すと、子どもの頃は気づかなかった主人公や相手の気持ちとかまで気がいってしまって。「シンデレラ」でいうと、王子様はめっちゃ切なくガラスの靴を拾ったんだろうなとか。「ジャックと豆の木」は、ジャックが魔法を信じたから神様か魔法使いがジャックに期待を込めて豆を渡して、色んな想いでジャックを見てたと思うんですよね。有名な話なので、そういうことを思いながら違う切り口にしようと思って描きました。
SHOWER:今回描いてもらった香川の民話を元にした作品でいうと、香川出身の人でも知らないのも多かったんですけど、場面の特異性を描くというよりは、絵を通してお話を伝えようとしてくれてると感じました。
Terada:全く知らない話ばかりだったので、知らない話の知らない場面を絵にするよりも、興味を持って知ってもらえたらいいなと思ったので、東京の作品とは違う考え方で、話そのものをわかりやすく伝えるような感じでつくりました。メインビジュアルの2枚の絵には香川の民話のキャラを盛り盛りに入れているんです。
SHOWER:昔話特有の何かが何かに変化することが2枚の絵で表現されていますよね。
Terada:そうなんです。ヴィジュアルに使った沢山のキャラクターやモチーフは、THE SHOWER GALLERYさんとのコラボでつくったZINEに掲載した香川の民話を合体させた話からのものです。現代の小説だと何かが変化する場合には理由が描かれるんですけど、日本昔話では変身は当たり前になってるんですよね。それが面白いなと思って。突然変わっても成り立つっていう、そういうおおらかなところもいいですよね。ちなみに、ZINEの裏表紙にあるシャワー浴びてるこれはTHE SHOWER GALLERYの松田さんです(笑)。
SHOWER:作品の一部に入れていただいてありがとうございます(笑)。キャラがいっぱい出てきて面白いですね。
Terada:タコとへビが相撲をしたり、松を引っ張りあったり。お地蔵さんがお坊さんに変身したり(笑)。あらすじを絵の下に配置しているので、絵とあわせて見てもらえたらもっと楽しいと思います。
SHOWER:今回の展示は巡回展となっていて、香川での展示の後は、東京で展示されます。香川で生まれた寺田さんの作品が東京で展示されるのは面白いですね。 今後は寺田さんの中で取り上げたいテーマ、描きたい絵っていうのはありますか?
Terada: 童謡とか昔話はやっぱり面白いので、機会があれば色んな場所の話を元に描きたいなと思います。
SHOWER:47都道府県制覇ですね!
Terada:ご当地演歌みたいな感じで絵を描いていけたらいいなと思ったり。
あとは、展示で恋をテーマに大阪で個展をさせてもらったんですけど、それは反響が大きくて。恋がテーマだとみんなの共感を得て色んな想いで見てもらえるんだと思って。恋の絵もこれから描いていきたいテーマの一つです。今回もね、昔話の恋の話を掘り起こして描こうと思ったんですけど、悲しかったり血みどろやったりして…。なかなかそれを描くには重くなりすぎたので、恋をテーマにした絵はあきらめました。
SHOWER:ZINEの中にも恋の要素を盛り込んでいただいてますけど、寺田さんが描かれるイラストって言葉がなくても伝わるものがあって、表情がすごく豊かで見ててすごい面白いなと思うんですよね。
Terada:
ありがとうございます。最初の方にも話しましたけど、落語とか能とかって、指一本や視線や仕草だけで感情や風景や自然を表したりするので、すごく憧れています。私も絵だけで成り立つのが理想で、絵だけでお芝居ができたらいいなと思ってつくってますね。サイレントムービーみたいな感じで。
イラストレーターってそのまま訳すると「図解する人」っていうのがあるんですけど、それは凄くあってるなって思っていて。言葉や字で説明するのではなく、状況を絵だけで伝えることがイラストレーターかなと思ってて、それが出来るように日々精進しています。
SHOWER:精進される必要がないくらい、出来てると思うんですが(笑)。
それではここでみなさんから寺田さんへの質問をお聞きしたいと思います。
Visitor:昔話が面白いと思われるようにきっかけと、「こぶ取り爺さん」の絵は、森の中からこっそり見ているような視点だなと思ったんですけど、どういう視点で描かれたのか聞けたらお願いします。
Terada:ありがとうございます。お話に興味が出たのは幼少の頃からかな、日本昔ばなしとか凄い好きで、ある時、世界の昔話集みたいな単行本を小学校の時に読んだんです。それが凄く面白かったんですけど、衝撃的で。「釘のスープ」もそうなんですけど、ありえへん話になってくるのに、当たり前に常識とか関係ない話が多くて。日本昔話とかも、変身するとか当たり前やし、自由さが魅力ですね。小説も好きなんですけど、それよりもあり得ない話を簡潔にまとめられてるのが面白いなと。
「こぶ取り爺さん」の絵は、森の奥深くの真夜中というのを表現するために、木々の隙間からおじいさんや鬼たちがちょっと見えてるっていうような表現にしました。たぬきか何かが見てるんじゃないでしょうか。この話は陽気で踊りの得意なおじいさんだと鬼たちに認められてこぶをとってもらえるんですけど、下手な人だとダメっていうシビアな話ですよね(笑)。
SHOWER:そうですよね。ダンスで決めるなよ、こぶの取る取らないを(笑)。ダンスではなくて自分の得意分野で勝負させろって感じですよね。
他に質問がある方はいらっしゃいますか?
Visitor:絵のタッチは描き始めた時から変わらないですか?
Terada:変わっていってますね。今の絵は3年前からやり始めて、それまでは線画みたいなのに差し色を一色みたいなものが多くて。個展が決まった時に線画だけだとスカスカやなと思って、何かベタなものがドンとあったら見る人は見やすいかなと思って。自分ができる範囲で好ましいものができるかなと考えた時に、カッターは使えるからステンシルなら出来そうと思って。やってみたら出来たので、色々と改良しながらやってきて、今では定着しつつあります。また変わるかもしれないですけど、出来ないことがすごく多いので工夫をしています。
SHOWER:学校で習ってないからこそ、固執せずにスタイルができている感じもありますよね。
Terada:そうかもしれないですね。自分ができることをやっている感じなので、また違う工夫をすると道ができていくというか。
SHOWER:それでは、最後になりますが、どなたか質問ありますか?
Visitor:パッと見た時に色の中に風景やストーリーがあるようなイメージを受けました。絵を見る人に委ねているような印象を受けるんですけど、これは直感なのか計算して描かれているのか聞かせてください。
Terada: 計算してると言われるんですけど、計算というよりは直感だけという感じですね。一部をトリミングして見せることで、全体を表現するのが好きで。おっしゃる通り、答えはこれだ!ってなるものより、一部だけにして想像で補ってもらえるようなものが好きなんで、全体を描くことが少ないです。
SHOWER:絵だけでしっかりと表現しながら、見る人に想像させる余白を持たせる考え方が寺田さんらしいですね。今後の作品も楽しみにしております、ありがとうございました。
※本インタビューは、2018年7月20日のアーティスト・トークを記録・編集したものです。