SHOWER MARK

Yoriko Youda

曄田 依子

Yoriko Youda

曄田依子(Yoriko Youda)。愛媛県出身。武蔵野美術大学油絵科卒。現代アジアに混在する華やかな伝統を現代の視線を取り混ぜて視覚化する。和紙に透明水彩のアートワークをはじめ、立体作品からファッションアイテムまで形態は幅広い。個展、グループ展やアートフェア出品等、国内外で活動中。2014年に住吉大社(大阪)より御祓講獅子意匠預を委嘱され、獅子舞頭意匠や祭事に関わる物のアートディレクションを行っている。

  • 2013年Behance Portfolio Reviews #4 最優秀賞
  • 2015年The EMA Show / Hellion Gallery(アメリカ)
  • 2015年UNKNOWN / ASIA ART EXCHANGE OSAKA 2015(大阪)
  • 2017年東京100人展 / MDP GALLERY(東京)

www.yoriquo.com

Artist Interview

SHOWER:THE SHOWER GALLERY6回目となる展示アーティストは、東京で活躍されているグラフィックアーティストの曄田依子さんです。曄田さん、よろしくお願いします。

Youda:よろしくお願いします。

SHOWER:曄田さんは現在アーティストとして活躍されていますが、元々アーティストを目指そうと思ったのはいつだったんですか?

Youda: 目指そうとしたのは、大学受験をしようとする17〜18歳の時です。大学に行こうというときには将来を見据えるわけじゃないですか。情報が少なかったのもあり、絵の道に進んだら作家になるんだな私は、と思い込んでいました(笑)。

SHOWER:それがすごいですよね!美大を出ても色んな職業に就けるじゃないですか。

Youda: それもあまり知らなかったんです…。アーティストとデザイナーが別れていることは知っていたんですけど。私は油絵科に進んだので、油絵科はアーティストしかないんだろうと思い込んでいたのと。美大受験のために入った予備校の先生が一般的な教え方じゃなくて、最初から一作家としての心得をすごく教えてくれる先生で。その刷り込みもあったんだと思います。

SHOWER:美大に受からせるためというよりも、アーティストとしてどうなっていくかを教えてくれたんですね。

Youda: 受かるのは当然で。美大に入ってから4年間学んで、その先どう生きて死ぬんだっていうことを17、8歳の小娘に本気でぶつけてくる先生なんですよ。なので、作家とはこうあるべきだっていう作家論を書かされる、そしてつくらされるということをやってました。

SHOWER:作家論まで書かされるんですか!?

Youda:そうなんです。毎日、制作日誌を書かされる。それで、今日自分に足りなかったものや好きな作家を見つけてコラージュして、どんどん毎日拡張するという。ちょっと変わってますよね(笑)。デッサンも大学受験のデッサンなのに、正しいか正しくないかより、美しいものを描くことを刷り込まれました。
でも、私は今でもビール瓶を左右対称に描けないです…。先生、そこをもうちょっと教えて欲しかった(笑)。ちなみに、描く情熱とグレートーンの仕上がりをすごく褒めてくれたので、アルミホイルは得意です(笑)。

SHOWER:ものによって画力にも開きがあるんですね(笑)。

Youda:開きがありました。予備校の最後には、石膏像が受験に出たら諦めろって先生がさじを投げてしまって…。その年は石膏像が出ない傾向だったんですけど、見事に出ました(笑)。

SHOWER:それでも受かったのがすごい! そういえば予備校時代の先生の名言が結構あるんですよね。

Youda:毎日、先生が講評してくれるんです。今日、何を描いたって全生徒分並べて、いい絵は並べて残して、悪い絵をどんどん指し棒みたいなので倒していくんです。せっかく描いた木炭絵を倒したら、ブワ〜!って広がって、描いた絵が床に写っちゃうくらいで、これはダメですと。
「こんなの描いて、今日死んで。これが遺作になってもいいの。」って言われて…。っていうのを毎回やるっていう。毎日死ねと(笑)。そして「毎日遺作を残せ、悔いなく美しいものを描けと。」その度に、その頃はまだ純粋だったので、「これで死にたくないです」って泣かされて、とぼとぼと家に帰る(笑)。

SHOWER:17、8歳の子にやる行為じゃないですよね(笑)。

Youda:今やったらニュースになる。ネットでちょっとえらいことになります(笑)。でも本当に美というものを信じてる先生だし、私も3年間きっちり染み込まされました。それと「素材に感謝しろ」っていうのがありました。私が描こうと描くまいと、誰にも描かれてないこの白いキャンパスが一番美しいし、なんならお店でお金を出してみんな買うものだから。絵を描くことでキャンパスの価値をどんどん下げて、ゴミに近づけてるのは私だぞっていう。その絵でお金をもらえるようになったら作家だから。そうなれるように素材に描かせてくれてありがとうと思って、道具を大事にしろっていう。お前なんぞが筆を握らせて感謝しろっていう教えでした(笑)。

SHOWER:その教え方すごいですね(笑)。

Youda:当時はね、本当に死に物狂いだったんです。あとは、バカは絵を描けないっていう。学校の成績が悪くても、努力してそれなら良いけど、一冊でも多く本を読めと。自分が失敗せずに済んだ人生をいっぱい本に書いてあるから。いっぱい夢も見させてもらえて、その人の見てきた考えてきた世界を字を見ただけで得られるんだから。そうやって世界を広げるんだって教わりました。それを真に受けて、めっちゃ本を読みました(笑)。

SHOWER:受験対策だけの予備校よりも、その後を見据えた教え方だと、熱量が違って本当に面白いですね(笑)。

Youda:確かに今でも、大学よりも受験よりも予備校で教えてもらったことが自分の支えになってます。先生のもとを離れて20年、今では生きた言葉をもらえて幸せだなと思ってますね。

SHOWER:アーティストを続ける上で大切にしていることってありますか?

Youda:自分が描き続けるモチーフ、対象を嫌いにならないようにする。愛し続けるっていうことが一番大事かなと思います。描く自分もその方がきっと楽しいし、同じ素材でも一回描いて終わりじゃなくて、何十回描き続ける中でも発見はあるし、醸成されていく。そして、経験する過程でファンになってくださった方を裏切りたくないと思うので、描く前にこれ50年続けられるかなって、立ち止まっては描いてます。去年はこれで描いてたけど、やっぱり描くの辞めましたって言ったら、そのファンの方を裏切ることになるし、一緒に進みたいなと思いますね。

SHOWER:自分で描いてるけど、周りの人に描かされてるみたいな。

Youda:描かせてもらってるんです(笑)

SHOWER:そうでした、描かせてもらってる(笑)。曄田さんの今の作風は今回展示してるようなものですけど、実は最初の方は全く違う作風だとお聞きしました。

Youda:実は25歳の時に、初めて入った会社を辞めて、作家になろうと全部手放した時期があって。じゃあ、今日から作家をやるぞと描き始めて、ハタと止まったんです。なぜならその時、おっぱい丸出しパンツ一枚のガールズイラストを描いていて(笑)。これで世界と勝負するのか…。そして、60歳の還暦を迎えた時に、これ描いてられるのかっていう。それは無理だと…、おっぱいのお姉ちゃんではないと思いました(笑)。

SHOWER:おっぱいのお姉ちゃん(笑)。

Youda: そこから真面目に考えて、私はきっと絵を描き続けていないと生きてはいけないから、一生かける自分の生命維持のためのテーマをきちんと持って挑もうという風に思いました。祝うということ、祈る、祀る、これはもう日本人である自分のアイデンティティでもあるし、自分が生きてるうちは絶対になくならないと思えました。あと、人のために人を祝福し続けるというのは、出来るかもしれないって思ったので、このテーマで、おっぱい卒業致しました(笑)。でも、1年かかりました。
絵も描かずに、自分が何者になりたいか、色んな自分の好きな作家さんを集めてコラージュして、なぜ好きなんだろうっていう。私はこの人のどこに憧れているんだろうっていうことでマッピングをして。また図々しいけども、その中で自分はどこに行きたいんだろうっていう予想像を作ってからのスタートで。頭かたいでしょ(笑)。

SHOWER:いえいえ。コラージュしてマッピングされるというところは、予備校時代の経験が生かされているような気もしますね。日々、知識を広げて、それを並べて俯瞰して見ることが、改めて原点に返るような、そういう手法になってるのかなと思ったりしました。

Youda:パッションで描くものではなくて、分析と研究と検証で描くというのを10代に刷り込まれてしまって。なので、テーマが決まってからは、日本のめでたいことに関する文献を読み漁って。視覚化されているものと、されていない概念のものを比較していきました。それが歴史の勉強にもなって、全て他国からのもらいものであることが分かった時に、日本とは?と思って。
その日本とはっていう違和感を、私が感じる現代の一つの課題として絵にしようって思って。描き出したテーマは、アジアの伝統における違和感を形にするというものでした。

SHOWER:その時は、人が含まれている場面も描かれていましたけど、現在は獅子のような動物を描かれてるんですね。

Youda:そうなんです。今は、人間が一切出てこないです。人間は大好きなんですけど、人間を描きたいからと言って人間そのものを描くということが、私の目的ではないのと思って。解決してくれるやり方がないかなと思った時に、「犬」っていうキーワードに突き当たりました。
古代から人間の一番近くにいるパートナーとして、狩猟道具の役割から数千年たって、今は家族や別の形で一緒に過ごしている。人の次に人の歴史に関わっている動物である犬を描こうと思いました。
それと、犬を描くことで人間の業そのものも描けるなと考えました。というのも、ブリーディングという、遺伝子操作の技術があって。牙と爪を道具として使っていたのに、今はその牙と爪を抜いて愛玩動物として、姿、形、DNAを操作してつくり変えているっていう。これって人間の業だなと。それでもずっとそばにいてくれる愛しい存在でもあるし、それを描こうと。あと犬が超好きなんで、これは飽きないぞと(笑)。

SHOWER:犬好きなのは今日でよくわかりました(笑)。ずーっと、ギャラリーの犬を抱きかかえてましたもんね。
祝いをテーマとした絵を描く活動とは別に、今回は初めて小説を書かれましたが、書いてみていかがでしたか?

Youda: 初めてやることってエネルギーがめちゃくちゃいる。先ほど話したように、絵を描くだけでも、分析と研究と検証をするタイプなので、本を出すぞ!と編集会議が始まってから、3ヶ月はものの書き方っていうのを勉強し続けたんですね。映画の脚本の作り方、小説と絵本の書き方、ゲームキャラクターの設定の仕方という風に、いろんな分野の書き方を3ヶ月かけて学んで。映画を見ると、こういう流れでここで盛り上がって終わって。やっぱりねっていうのが分かるようになってきて。今は楽しくなくなって来てるところです(笑)。
ようやくベースができてから、狛犬は絶対描きたいと思っていたので、10章仕立ての200ページの本に結果的になってしまったんですが…。実は1章目を1時間で書き上げちゃったんですね。最終まであまり編集の手も入らずそのまま行ったので、あと9時間でできちゃうし、天才なんじゃねえのって思ってたら、気づけば2年かかりました(笑)。
もっともっと良くしたいと思ってると、書きながらでも情報をどんどん集めちゃって。それがどんどんノイズになってくるんですね。最初はこういう話に決めたけど、この間読んだあれを見た限りこうした方がおもしろいと。例えばカレーにスパイスを入れ続けると辛くて食べられなくなるじゃないですか。味もバカになってくるし。その状態で、作って壊すっていうのを結果2年。私の担当編集も「お前が言うなら、じゃあ!」て乗っかって来て。最後はカレーじゃなくて、パエリアみたいになったような(笑)。

SHOWER:パエリア(笑)。
今回は文章を書いてその中の挿絵もご自分で描かれたと思うんですけど、それぞれの役割分担ってあったんですか?

Youda:作業としては最初は文字だけ書き始めたんですけど。絵描きなんで、絵は頭の中にずっとあって。せっかく絵描きが本を出すんだから、絵描きならではの見せ方ができないかなと思いました。
なので、読んでいただけたらわかるかと思うんですけど。字を読むだけでは物語が補完されないところを絵で表現する。その次に絵を見た後でわかるように、話を字で書く。字、絵、字、絵が続いた時に、絵が単なる装飾ではなくて文字と同じ情報量があるっていうのを交互に楽しめるように作ったつもりです。

SHOWER:まさに曄田さんならではの本のつくり方で、両方を一人で書けたからですよね?

Youda:分業ではできないと思います。あと、人に言われて気づいたことがあって、私は視覚優先の人間のようで。というのも文字の表現に、音に関するオノマトペがほとんどないねって最初に言われて。その代わり夕日がどんなグラデーションで色が移り変わるだかとかは、色の表現がめちゃくちゃ分厚い。偏ってるって言われて、初めて私は音に興味はなくて、目に見えるものが全ての人間だなっていう発見がありました。それを私のマイナスではなくプラスにしようと思って、10章仕立ての1章ごとにテーマカラーを変えたんです。ここはホットに感じて欲しいとかざわっとさせたいとかで、この色の章にしようという風に。私が感じて欲しいように、読む人も色を感じられるような方法を試させてもらいました。

SHOWER:普段描かれる落ち着いた感じとは違って、ポップな色味が使われている印象でしたね。

Youda:そうなんです。蛍光ピンクとか(笑)。やっぱり読んでる人とコミュニケーションしたいので、そのための仕掛けというか。

SHOWER:普段は色使いで気をつけてるところってありますか?

Youda:今の話と一緒になっちゃうんですけど、ここにある絵の全てに共通してるのが音のない世界というのを目指して描いてます。人によってはこの絵はこのBGMに合わせて描きましたっていう方もいらっしゃいますけど、私の場合その絵を描くときに全く無音状態に入っていく時が一番研ぎ澄まされている状態で。人に言われて気づいたんですけど、息もしてなかった(笑)。完全に世界に入ってしまったときに無音ていう、見たことのない瞬間や刹那というものを目指して書いています。

SHOWER:観てる人にもそう感じて欲しいですか?

Youda:一瞬でも息が止まってくれたらいいなと。ふっと対峙するときに静かな気持ちにならざるを得ないというか、神妙な気持ちといいますか。ああいう空気感を表現できたら理想ですよね(笑)。

SHOWER:今後、描いていきたい絵やテーマはありますか?

Youda:形態というか、こういうものっていうのはないですね。でも、死ぬときは筆を持って死にたい(笑)。
映画だったりアニメだったり、お声がけがあれば何でもやってみたいです。今回、小説を書いている時でさえ、登場キャラの声優を誰にしようかなって考えてました。

SHOWER:アニメとして動いている絵は、ぜひ観てみたいです!楽しみにしています。本日はありがとうございました。

※本インタビューは、2017年12月1日のアーティスト・トークを記録・編集したものです。

Date:2017.12.1

Interview by THE SHOWER GALLERY

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